海月


海月長い坂道の先き
切り通しの彼方に

大きな腕に包まれた
波音の海がよこたわっている

その眩しいきらめきの中から
藍色の海月を召還し

空洞のうねりは
音叉のように共鳴し旋回する

なめらかな放物線でもある
光跡は振動し

モンドリアン信号を点滅させ
空を振動させては何時間も浮遊する

迷いのない
風が吹き抜けたあの日

中枢にある乾いた黄土に
無数の水滴が噴霧された

幾重にも変容してゆく
同軸上に描かれた風景の記憶は

やがて造られたすべての形状から
ひとつの勾玉を誕生させる


2001.11.13


鱗の顛末

アメジストの夜空に
龍の鱗

青磁の花瓶に生けた
黄金の葉が腐食するという
噂は真実だった

あの日ヴェネチアのバールで見た幻影は
ホイックニ−の絵の中で
狂ったように疾走し

方丈記のエントランスを横切ると
舞い上がる粉塵の中から
藍色のウサギを出現させ

カナリヤは絶望・・・
狼は神・・・豚は誠実・・・
と啓示を説き赤い眼を見開き消滅した

2001.12.25