ゾルキ−6(Зоркий-6)

 バルナックライカコピーとしてFedの技術者の指導の元KMZ(Krasnogorsky Mekhanichesky Zavod)から製造されたのがFed-Zorki(1948)で、ゾルキーの1号機である。翌年Zorki-1(a-e)が発売されてから、ゾルキーの名前で最後まで製造されたZorki-4K(1972-78)までおよそ30年にわたって作られたゾルキーは、Zorki-4の簡易モデルMIR(1959-61)を含め約12機種あまりのモデルを製造。そしてZorki-6(1959-66)はそうした一連のゾルキーとは違う系譜に属した、Zorki-5の改良型でありゾルキーの最終モデルである。
 
 改良された部分はフイルム装填が底蓋脱着式から蝶番による裏蓋開閉式に、さらにセルフタイマーが搭載。またゾルキー5でロゴが刻印(赤)であった初期モデル(距離計窓の形状は丸型ではなく四角)もあるが、その後ロゴはすべてプレートをボディに貼る形になりゾルキー6も同様である。特筆すべきはゾルキーシリーズ唯一裏蓋開閉式になったことから、ゾルキー5で取り外し可能であったスプールが個定式に変更。
 さて裏蓋の脱着あるいは開閉についてだが、どんなカメラであれ基本的に外に持ち出して使用するものであり、そういう意味では圧倒的に蝶番による裏蓋開閉式ふつうに便利である。それはフイルムの使用頻度にも関係することだと思うが、一度フイルムを装填し数日も数カ月もフイルムが入ったままといった使い方をするなら脱着式でも問題はないのだが、スナップをして歩き1日に何本ものフイルムを出し入れする僕としては、単に「ボディ剛性がある」という表現で蝶番式より裏蓋脱着式や裏蓋底蓋脱着式である方が勝(まさ)っているような記述を見るにつけ、裏蓋脱着式や裏蓋底蓋脱着式であることの良さもしくは利点を見つけることが出来ない自分がいるのである。
 
 手元にあるゾルキー6はシリアルNO.650049571、レンズはИНЛУСТАР(インドゥスタール)50mmf3.5シリアルNO.6590533で共に1965年製造である。仕様としてはマウントはM39ライカLマウントで、メカニカルタイプの布幕横走フォーカルプレーンシャッター。シャッター速度は低速シャッターの省かれた、B、1/30、1/60、1/125、1/250、1/500秒。人によっては人気のあるゾルキー4などに搭載されている低速シャッター、それに高速シャッターの1/1000秒がないことを気にするようだが、僕は未だかつてスナップ撮影で1/1000秒などという高速シャッターを必要としたことがない。それに低速シャッターにしても使用するのは稀なことで、省かれていること自体にさほどの疑問も不具も感じられない。
 40年前に製造されたカメラに対して、高速シャッター、低速シャッターうんぬんという表現の仕方はいかがなものか?すでに製造を打ち切られた古い時代のカメラであり、それは現代のカメラとはまったく違う発想の元に作られて来たのだから、機能的不備を指摘するのではなくカメラの持っている機能に応じてISO感度の違うフイルムで使い分けるなどして、そのカメラの機能を活かすことを考えるのが筋であろう。
 
 さてこのカメラに付いていたのはИНЛУСТАР(インドゥスタール)50mmf3.5で、アルミ性の軽い仕様ではあるがレンズ描写はいたってシャープであり、発色・コントラスト・描写性なども安定し使いやすい。ゾルキー6とのバランスも良くホールディング性も上々であるが、レンズが軽すぎてストラップをかけた時のボディとのバランスはいまひとつである。
 しかし写真を撮るという当り前のことを前提にLマウントレンズを見ると、多少気にかかることがある。それは絞りリングがレンズ前玉回りにあるものが多く、絞りを変える時いちいちレンズをのぞくような感じで操作することになることである。特に広角レンズなど、窪んだ位置にある絞りリングを迅速に操作することはけっこう厄介だ。ゾルキー5も6もボディのコンパクトさからいえば、沈胴タイプの50mmを装着するのがもっとも外観的には美しく、コンパクトなボディに合っているとは思うが、やはり使いやすさでいえば沈胴タイプではない固定鏡胴のインドゥスタール50mmf3.5、あるいはF値が1.5と明るい50mmЮПИТЕР−3(ユピーチェル)あたりがこれに該当する。それはカメラをホールディングした状態でヘリコイド前にある絞り値が見えるということが、どれだけ撮りやすさに結びつくかという写真を撮る側としての視点である。
 
 ファインダーは距離計連動2重像合致式で、軽度な近視・遠視であれば十分対応のできる視度調節機能が巻き上げノブ回りについている。そしてフイルムカウンターは0からの順算式で、セルフタイマーは約8秒機械式で露出計は内蔵されていなくいたってシンプルで機能的である。
 一般的にゾルキーの中で評価が高い機種はゾルキー4・4K(巻き上げがノブではなくレバー式に変更されたが、ストラップを取り付けるアイレットは省略されている)といわれゾルキーシリーズの頂点に位置すると思われるが、別の系譜であるゾルキー6は開閉式の裏蓋、レバー式の巻き上げ、そしてコンパクトな作りとフォルムにはゾルキー4・4Kが持っていない今のカメラに通じる部分が多い。
 しかしノブ式フイルム巻き上げや裏蓋、もしくは裏蓋底蓋脱着式である方が好きなソビエトカメラファンには物足りないようで、デザインにしてもソビエトカメラの魅力?に欠けるといといった考えを持っている方も多いようだ。しかしカメラは写真を撮る道具であり飾り物ではないわけで、使いやすさと機能美それに堅牢性を備えたゾルキー6は、ゾルキーの到達したレンジファインダーカメラの進化の形であると僕は思っている。