ヴァスホート(Восход)その後

 パンフレットでしかその存在を知ることがなかった、ラテン語表記プレートのヴァスホートが気になって、ものはためし2台目のヴァスホートを入手したウイーンのメールオーダーサイトを主催しているVK氏に、ラテン語プレート表記(written in Latin)のヴァスホートの探索を2003年の7月にメールで依頼したところ、同年10月ラテン語プレートバージョンのヴァスホートが送られて来た。正確にはシリアルno.674231、つまり1967製造で製造を打ち切る1年前に製造された固体であった。
 これで3台のヴァスホートを入手したわけだが、ラテン語プレートバージョンだからといってとりたてて他のヴァスホートと違う個所は見受けられない。しかしヴァスホートが1965年以降、海外輸出を目的にして製造されていたことは月刊写真工業に掲載した『愛しのヴァスホート』でもふれたが、ラテン語プレートバージョンを入手してくまなく調べた結果、明らかに違うのはプレート表記だけではなく、カメラ底に『MADE IN USSR』の刻印。それにヘリコイドの撮影距離を示す数値がВОСХОДとプレート表記されている固体では1M 1.1 1.2 1.3 1.7 2 2.5 5 ∞という表示であるのに対し、1966年製造からのVOSKHODとラテン語表記された固体には、1M 1.1 1.2 1.5 1.7 2 2.5 5 8 ∞と微妙に距離数値に違いがあった。
 
 さてすでに手にしていた2台のヴァスホートはセレンメーターが停止していたが、3台目のヴァスホートのセレンメーターは作動していた。もちろん置かれていた環境やセレンメーター自体の寿命など固体差はあるわけで、製造年が新しい古いに関係なく作動しているものも作動停止しているものも存在する。ただメーターの作動しているヴァスホートを見たことがなかったので、ファインダーの中で絞りを替えると気持良く触れる針は、1964年の発売当時のヴァスホートを手にした人たちの驚きの表情までも僕には伝わって来るようで、作動確認が出来た瞬間一気に40年前にタイムスリップしたような不思議な感覚に酔ってしまったくらいである。
 3台目が到着して数日後、速いシャッタースピード設定でファインダー内のセレンメーターの針がひっかかる状態にあることが分かり裏蓋をあけセレン室のカバーを外し、感度ダイヤルと連動しているギヤ部分に注油をし、針の台座の回転を見ながら各部にさらに注油を加えたところひっかかりがなくなりスムーズに作動するようになった。
 これでどういう構造でメーターの針と感度ダイヤルが連動するのかを確認出来たわけだが、その時もしかしたら他の2台もセレンは生きていて、連動する部分が長い間使用されていないため固まっているだけではないかという思いが強くなり、思い切って2台のヴァスホートのセレン室のカバーを外し3台目の作動している固体と比較しながら少しずつチェックし注油などをして行くと、驚くことに1台目のエプロン部分にネジ止めのないヴァスホートのセレンメーターが可動仕始めたのである。
 2台目のヴァスホートは、感度ダイヤルと連動して動かなければならない部分それ自体が内部で外れているようで僕の手におえない状況であった。ともあれ購入してから1年あまり作動を見ることがなかったセレンメーターを自分で復活させることが出来たとこ以上に、すべてにおいて作動する固体になったことを喜ばしく感じたのである。