ローライマジックII(Rollei MagicII)
 Rollei Magic(シリアルno.2500000〜no.2524999で、総生産台数24999台)は1960年に二眼レフ初のプログラムAEを搭載したAE専用モデルとして発表され、1962年マニュアル露出機構を追加し発表されたのがRollei Magic2(シリアルno.2535000〜no.2547600で、12600台)である。仕様としてはビューレンズはHeidosmat75/F2.8 、撮影レンズはSchneiderのXener75/F3.5。シャッターはProntomat S、Automatic exposure range from 1/30 - 1/500 sec、manual B、X-sync。Manual from EPV 8.5 -18でゴッセン社の大型露出計を搭載し1968年まで製造された。
 
 本体は巻き上げクランク側にある小さな楕円形のフイルムカウンターの形状などからローライフレックスTをベースにしていると思われるが、デザインその他まったく他の機種と比較出来ないほどの新しい試みがなされているカメラである。外観的に他のローライと圧倒的に異なっているのは、カメラフロント部分を覆っているレンズ回りの迫り出した形状だろう。これはレンズをピントノブでくり出すのではなく、レンズ脇にあるフォーカシングダイヤル(wheel)でレンズボードをくり出すことなく、レンズを回転させることでピントを合わせられるように設計したことによるデザインで当時としてはかなり奇異に映ったに違いないが、当時のローライフレックス・ローライコードユーザーにはあまり人気がなかったようで生産台数も少ないようである。
 余談だが、国産のリコーオート66とローライマジックはかなり酷似している。オート66が発売されたのだ1959年で、ローライマジックが発売されたのが1960年。リコーオート66は海外輸出をメインに生産された機種といわれ、ローライもオート66を見ているはずである。ということは、二眼レフ初のプログラムAE化は日本のリコーの方が早かった?ということになるのだが、一般的には初代ローライマジックというのが定説である。
 
 レンズを覆ったフロント部分が直線的でややはり出していることから、ローライフレックスやローライコードとはまったく一線をおいた未来的なデザインとなっている。はじめて写真を見た時とても大きなカメラのように感じたが、手にしてみると予想外にコンパクトで見れば見るほど美しい形状をしている。それに重そうに思えるボディは、国産二眼レフのミノルタオートコードあたりとほとんど変わらない1kg(ちなみにオート66も1kgである)とかなり軽量なので、街歩きでスナップをするにはもってこいの二眼レフといえるだろう。
 そしてピント合わせがフロント左のフォーカシングダイヤル(右はオートとマニュアルの切り替え)となったことでボディ脇にあったピント合わせのためのノブがなくなり、さらにフィルムを出し入れするふたつの小さなノブを平らなシーソー(keys)型にしたことでボディ側面がスッキリしたデザインとなっている。この方式はノブ型とくらべると、操作性において格段に使いやすく僕がもっとも気に入っている部分である。
 しかし同じ面のピントノブがなくなったことで、他のローライで無意識のうちにピントノブを包込むようにホールドすることができずはじめのうち左手の置き場に困ったがが、親指がフォーカシングダイヤルに触れるようなホールディングをしているうちにローライマジック2の撮影スタイルに慣れてしまった。また通常ピントノブがある位置に、ホットシュ−が付いている。これは他の機種にないものだが、ホットシューの中にシンクロターミナルを配置するという発想も(使いやすいかどうかは別として)かなり奇抜で面白い。
 
 僕がローライマジック2に興味を持ったのはデザインの斬新さと、SchneiderのXener75/F3.5が付いていること、それにもちろんプログラムAE機能が付いているということである。二眼レフを使うようになったのは写真家リチャード・アベドンの影響で昔ローライフレックスを使っていたのだが、カールツァイスのプラナーの描写がやわらかく感じいまひとつ馴染みきれなかった。モノクロフイルムで撮ることを目的としてローライフレックスを買ったものの、なぜか描写がシャープなロッコールレンズを搭載したミノルタオートコードばかりを使用し、ローライフレックスを使わなくなってしまったのである。その後使うことのなくなってしまったローライフレックスを売却してしまったのだが、時間が経つにつれローライの感触を思い出し再び手に入れたいと思いはじめたところに、シャープさで定評のあるXenerの付いたローライマジック2(手元のマジック2のシリアルはno.2545351と、かなり後期のもののようだ)の存在が浮上し購入にいたったのである。
 それはさておき、使いはじめて気に入った部分がある。それはシャープな写りもさることながら、レンズが他の二眼レフより奥まったところに位置していることだ。というのは僕はどんなカメラでもフードを付けるのが嫌いなたちで、なるべくならフードを付けずに使いたいと思っているのだが、ローライマジック2はレンズ部分が奥にあることである程度フードの役目をしている点も魅力のひとつである。それに当然ながらプログラムAEだが、手元のマジック2はセレンの劣化によりISO感度換算で2/3ほどアンダー傾向にある。それは露出補正(僕の場合フイルム感度を−1/3設定で、+1増感現像)でプログラムAE撮影でほぼ適正露出を出せるのだが、通常の撮影はマニュアル露出設定で行なうようにしている。
 
 ローライマジックは発表当時フォトキナで注目されたものの人気はいまひとつだったようで、その後マジック2発売から6年という短い期間で製造中止となった。それにしてもローライフレックス、あるいはローラーコードのユーザーからこれほど軽視されている同社製のカメラも稀だろう。それは現代にも受継がれ、中古カメラ市場でもその絶対数が少ないにも関わらず不人気(メンテナンスが難解であることも理由のひとつかもしれない)なようで、価格は信じられないほど安価である。それにしてもデザイン的に他に類を見ないほど独創的でなおかつ美しく、プログラムAEというかつてないテクノロジーを形にした二眼レフを僕は知らない。