東京に戻り、部屋の片づけも終わらないまま、数日後に控えていた青山スパイラルホールでの結婚披露パーティの最終準備が始まった。
 バリに行く数週間前、会場に巨大な写真を展示したいという妻の提案を月刊カメラマンの編集長であるHさんに相談すると、「エプソンのEさんに相談してみましょう」ということになり話を進めていくと、有り難いことにインクジェットでA0という巨大なサイズに写真をプリントしていただけるという話になった。
 待に待ったエプソンからのインクジェット・プリントは帰国の翌日十月十二日に到着した。パーティまで後二日、これですべての準備は完了した。会場のスパイラルホールへは一度だけ写真家・田原桂一氏のトークショーを見に行ったことがあっただけだったが、打ち合わせで再び何もないホールを見た時はあまりにだだっぴろい体育館のような空間を前に、「こんなすごい場所でパーティか・・・」とやや怖じ気付いた。ともかくすべてが動きはじめていて、大きな船に身を任せているそんな心持ちだった。
 十月十四日結婚披露パーティ当日、写真家のK君にワンボックスを出してもらい、パーティに必要な引き出物、ウエディングドレス、バリの映像を流すためのモニターなどもろもろを運んでもらった。
 スパイラルに着き荷物をホールに運び込みしばらくすると元アシスタントのO君が来てくれたので、さっそくインクジェットでプリントした植物の写真十二点をマグネットで壁面に貼る作業が始まった。しかしホールの壁面が鉄の上に布が張り付けられていて、A0のペーパーが数分で微妙に下がってくることに気がついた。しかし紙の重さを計算していて、多めにマグネットを用意していたこととスパイラルの備品からマグネットを借りることでひとまず問題なく貼り終える。
 会場のセッティングが終わり僕自身もTシャツにジーンズから黒のマオカラーのスーツを着込んだ頃、両家の親族が到着し始めた。あまり親戚つき合いをしていなかったこともあり、久しぶりに会う親族人たちの顔をみつけるたび恐縮してしまったが、兄弟にしてもその頃あまり会うことのなくなっていたので、弟から「これ!」とさりげなくジョンとヨ−コのCD”ダブル.ファンタジー”を手渡された時熱く込上げて来るものがあった。そしてホールの壁に展示した写真を見ると、温光な照明の中で息づき妖艶に光り輝く植物たちが美しく浮かび上がり息づいているように感じた。