翌日は数人が一足先に帰国するというので、その中メンバーに入っている仲の良いSさん、Hさん、そしてK君と僕たちの五人でタクシーを拾いデンパサールへ行った。市場のあるあたりでタクシーを降りたが、降りたとたんウブドなどでは感じることのなかった緊張感というか寒々しい感覚をデンパサールの町に感じた。
 朝も早かったということもあり店はほとんど開いてなかったが、混雑している市場周辺はクルマと人が溢れるほど行き交い、排気ガスで眼が痛くなるほど空気が悪かった。しかし緊張感があるせいか写欲最高潮に達し、間髪入れずにシャッターを切り続けた。
 タクシーを降りた時から「ガイドします!、ガイドします!」と、無表情でしつこく着いてくる女性がいた。無視して雑踏を歩き回り時折振り返って、ようやくついてきていないと安心して撮影していると、何処からともなく寄って来ては馴れ馴れしくガイドをさせろという。うんざりしていても眼をあわさず無視し続けていると、その女性はその後一時間ほど僕ら後ろを付け回したあげく気がつこととどこかに消えていた。
 それからしばらく散策し、三人は帰国の準備のためタクシーでホテルに戻り、僕たちも時間をずらしタクシーでホテルに戻った。タクシーに乗っている最中、運転手が料金メーターを指さしたり、料金が印刷されている紙何度となく見せてくる。わからないまま彼の指さすあたりを良く見ると、行く先のホテルあたりの料金覧がに何やら金額の違う数字が並んでいる。
 何か良く理解できないままホテルに着くと、英語と日本語の話せるボーイがドアを開けてくれたのでタクシーの運転手の事を話すと、「メーターは旧料金でカウントされているが、現在は新料金になっている」ということを僕たちに知って欲しかったらしいという。何の勉強もしないままバリまで来てしまったが、今度来る時にはもう少し勉強して、バリの事情を頭に入れて来なければならないなぁと感じた。
 
 ホテルの部屋でひと休みして、再びタクシーに乗りジンバランの東南にあるヌサ・ドゥアへ向かった。しかしタクシーを降りると目の前に広がるのは、”ギャレリア・ヌサ・ドゥア”という巨大ショッピング・エリアだった。このあたりからすでに写欲は失せていたので、ともかくショッピングをし軽く昼食をとりギャレリア・ヌサ・ドゥアを離れた。
 タクシーに乗ろうとしたがなかなかタクシーが来ないので、ひとまずジンバラン方面を目指しバイパス・ングラライ通りを歩いていると、再び小さなお土産屋が並ぶ場所に出た。木製の猫の置き物をお土産数十個買い求め再び歩き始めたが、さすがに疲れタクシーを拾いホテルに戻ったが、ヌサ・ドゥアの人工的な美しさはテーマパークのようで今回見たバリでもっとも失望した場所だった。
 こうして午後帰国の途についたが、シンガポール経由の便しかなく空港内で六時間ほど時間をつぶさなくてはならなかった。広大なショッピングセンターのある空港内でいくつか土産を買い、喉が乾いたので屋上のレストランバーにいってみると、十月初旬のシンガポールの信じられないくらいむしむしした空気に閉口した。時間が来て飛行機に乗り込む。これに乗ると東京に着くのかとバリでの思いに耽っていると、突然に激しいゆれが襲って来た。飛行機嫌いの僕としては手に汗かく思いで「早く気流の乱れが治まって欲しい・・・」と願っていたが、旅の疲れかいつしか激しい機内のゆれも気にならなくなり睡魔が深い眠りを連れて来た。